−なぜ増える患者負担−『シッコ』で考える日本の医療

 
 1979年京大卒 神経外来担当、京都民医連中央病院に勤務される小児科の先生で京都府保険医協会理事でもある尾崎望先生に来ていただきました。ベトナムの枯葉剤の被害を調査し、実態を告発、医療支援を続ける「人権医師」です。

 2008年4月例会『シッコ』で、映画で描かれない日本の医療制度を見てみました。日本も、「後期高齢者医療制度」が大問題になってきていますが、本当にアメリカを笑えない状況になってきています。当日の講演の概要をお届けします。

 

 アメリカは世界一高い医療費を使ってもなお、健康達成度は15位、健康寿命は24位となっています。これはアメリカの医療が産業化、営利化していることや、老人と低所得者以外の公的な医療保険制度がなく、無保険者が人口の16.3%(1998年)いることと無関係ではありません。

 アメリカの現状は、日本が見習ってはいけない見本であることは明らかです。
 『シッコ』では、アメリカの医療制度の実態のひどさにあきれてしまう。でも、笑ってはいられない状況はこの日本でも進行しています。この20年間、国保加入者は無職者の比率が大幅に増え、収入は世帯あたり8%減少しています。一方で一人当たり平均保険料は同じ期間に倍加しました。そのため滞納世帯は実に5万2千世帯、国保加入世帯の20%を占めるにいたったのです。資格証発行世帯は3千世帯にも上っています。

 この事態にいたった原因は何でしょう。84年以降、国から国保への負担額が大幅に減らされたこと、そして京都市の場合は、市の一般会計から市国保への繰入金が、ほかの政令指定都市との比較において極端に少ないことにあります。アメリカを笑って、可哀そうにと言っていられるのでしょうか?最近外資系の医療保険がTV、新聞広告で圧倒していませんか。日本の保険会社も外資系に押されているのでしょうが、同じ穴のムジナでしょうね。この動きは当然、医療制度改革の動きと呼応しているのは当然でしょう。さて、誰の手にお金がなだれ込んでいるのでしょうね。

 

この20年間、医療費の負担は増え、医師の数は減らされてきた。アメリカの後を追う日本の医療の現場

 

  『シッコ』にフランスやイギリスの素晴らしい医療制度が登場してきますが、日本はなぜ出てこないのか。それは、マイケル・ムーアにとって日本を登場させる意味がなかった。日本はアメリカの後をそのまま追っているからです。
 医療機関にかかろうと思っても、病院自体が医師を雇えなくなって、入院患者を減らしたり、出産の受け入れを制限したりする事態が、ここ2、3年前からいろんな所で起こっています。


 北海道では、産婦人科医がこの4、5年でピーク時の20%減これが地域医療に甚大な影響を与えており、今年1月現在、8割の自治体で出産ができなくなっているといいますから、驚きです。北海道ではお産するのも命懸けみたいなことになってきていますが、昨年奈良でも同じようなことが起きています。また日本で小児科のある病院も10年間で3割減ってきています。日本は少子化対策といっているが、少子化を支える医療面では非常に厳しい状況で、これでは絵に描いた餅といわざるをえません。


 2年前から、リハビリの日数制限の打ち切りが始まっています。算定日数の上限が決められ、脳卒中の場合、リハビリを保険で公的に対応できるのは180日まで、運動器であれば150日、呼吸器であれば90日、それから先は保険がききませんよと、病院から追い出すようなことが現に起こっています。急性期の療養は終わったが、家には帰れないという療養病床が2年前まで38万床あったものが、平成24年までにご15万床に削減されようとしています。在宅で障害や病気の方を介護する力はそれほど大きくないと思います。老人保健施設や老人ホームで診なさいということを厚生省は誘導しようとしています。『シッコ』のように病院が患者を道ばたに捨て去るということが現実に起こってきています。そういう医療難民、介護難民が起きてくるかもしれない、と我々は危惧しています。


 日本は窓口で医療費3割負担ですが、これは世界の先進国に比して断トツに窓口負担率の高い国です。一定のお金の貯えがないと医療機関に行けない国になっているということです。『シッコ』で見たように、イギリスやフランスやカナダで医療を無料で受けられる、というのが普通の資本主義国の常識で、例外的なのは日本とアメリカです。「医療費水準最低、個人負担最高」これが日本医療の現実です。
 医師側の話を見ると、病院に勤める医師、勤務医の5割が「職場をやめたい」と答えています。医師の96%は宿直明けも勤務している実態です。僕も今日宿直明けで、映サに働かされています(笑)。住民千人に対する医師の数は世界で平均3.1人で、これを下回る日本は、このままでは1千人当りの医師数が2020年にはOECDで最下位になってしまいます。また日本の医師の労働時間は、西欧に比べて遥かに長く、更に70代から80代、90代まで働き続けている。また病院ごとに決められている標準医師数も、その基準を満たしている近畿地方が一番高くても87%、日本の7割がこの基準を満たしていません。


 日本の医師はひとり年間外来数8千人診ています。多いイギリスでも3千人台。世界でも断トツです。一方、1回受診当たりの医療機関に入る収入、診療報酬に対して入る額がとても少ない。だからいっぱい診ないといけない、薄利多売なんですよ(笑)。とうとう政府もこの2月に「総数として不足」と医師が足りないと認めました。
 70年代初めには医師を増やそうと「一県一医科大学」を目標に掲げます。ところが、1983年に厚生官僚が日本の国は医療費が国をつぶすぞといった「医療費亡国論」を唱え、90年代には医師の数は減らされ続けました。
 この20年間で医療にかかる負担で増えているのは患者さんと地方自治体です。事業主と国は減らしています。そこを変えていかないと健康は守れないということを私たちは訴えています。



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