『今夜、列車は走る』シネマ&トーク・比嘉世津子さん(09.6.14)

比嘉世津子さん シネマ&トーク

−−- 映画バイヤー/スペイン語翻訳家

  Action Inc. 代表。「好きなことしかしない!」をモットーに、渋谷からラテンアメリカ映画を発信するAction Inc.代表。NHKスペイン国営放送(TVE)の通訳を初め、映像翻訳、字幕、インタビュー通訳など、放送と映画に的を絞った仕事をしながら、映画の買付、配給、宣伝も行うラテン系関西人。今日を目一杯楽しむ、酒好き、祭り好きのバツイチ昭和生まれ。

この配給のお仕事を始められたきっかけはどういうことだったのでしょう。 

 私は関西出身で、関西外国語大学でスペイン語を専攻していて、1年間メキシコに行くことがありました。それまで日本では、右向け右と言われれば、つい左を向きたくなってしまうへそ曲がりなところがあったんですが、ラテンアメリカでは左でも右でも上でも下でもいいやん、という許容量があって、それがきっかけで人生が楽になったというか、踏み外したというか、それでそのまんま日本に戻ってきて就職試験を受けたら全部面接で落とされました。それで日本は私を必要としていないのかと思って、また放浪の旅に出てしまいました。当時、スペイン語の仕事があまりなかったので、アルバイトしてお金貯めてアメリカ、メキシコ、ケニアに行っていました。戻って来た時、日本がバブルだったのも知らなかったんですね。
 それから通訳の仕事をしたり、アングラ芝居をしたり、日本にいる意味、自分の居場所を見つけるためにいろんなことをしていました。通訳をしていると、相手のほうが意味のわからないことを言ってるのに、伝わらないと「通訳が悪い」とか言われたり、政府関係のお偉いさんにグリグリ回るなどの意味のないことをさせたり、ちょっと反論すると「たかが通訳のくせに」とか言われるんです。すると、黙っときやいいんですけど「お前に言われる筋合いはないやろ」というのが全身に出てしまうんですね。自分の性格上通訳の仕事はストレスがたまって、向いていないと思っていました。
 アングラ芝居は10年くらい続けていまして、京大西部講堂でもやっていました。でもお金はお芝居につぎ込んで通り過ぎていく、これでええんかみたいな空気が漂っていました。そんな時ある企画していた芝居がポシャリまして、その時、「新たなことをしなさい…」って、言われている気がしました。誰から言われているかわかりませんが…。
 

 メキシコにいた時からいつかラテンアメリカの夢であるキューバに行ってみたいなと思っていました。キューバの映画祭に行ってみて、それに向けて仕事を始めたい、もし縁があればいい映画に出会って、日本で公開できるかなと思っていました。そこで出会ったのが『永遠のハバナ』という映画でした。行く前は、「素人が行って権利を売ってくれるはずがない。」「映画祭はカンヌやベネチアにでも行かないと、キューバに行ったところでいい映画が見つかるわけがない」と散々言われました。権利を買うということも全然わからなくて、金額を交渉する時自分の貯金に「これだけあるんけど]と言うと「どうぞ」と言われる。「しまった」と思いながらそれで、スッカラカンになってしまいこの先どうしたらいいんやと思いました。

今では買付けの金額交渉はお上手になられたんですか。

 だいたい、向こうがいくら出すか間いてくるんですが、最近は「この映画に対してすごい愛はあるけど、金はない]って言うんです。メキシコ人がよくいう言葉なんです。そこで金額を言うと「なめとんのか、こら」みたいな感じになるんですけどね…(笑)。

ラテンアメリカの映画の魅力って何でしょうか。

 ラテンアメリカの映画は玉石混合っていいますか、よくこんなものを作るなって思うようなものから、へえっと思うものまで、バリエーションは多いです。日本にない魅力と思うのは、監督が脚本を書き、自ら金を集め、これが絶対撮りたいから撮っていることですね。アルゼンチンで一番有名なのが映画音楽のカルロス・サンタ・オヤラという作曲家ですが『ブロークバック・マウンテン』や『バベル』などのハリウッド作品も手掛けています。彼はアルゼンチンの若手監督に資金を提供してプロデューサーもしています。アルゼンチンは映画大国でして、毎年150本くらい企画としてアルゼンチンの映画協会に出されるんですが、その中で60本くらい製作費を国が半分持つんです。アルゼンチンの作品として、カンヌでもどこでも闘える映画をやろうとしているということです。それだけに若手監督が高い志をもってやろうとしている人が多いです。

日本よりは環境が整っているみたいですね。

 環境というよりは、ドキュメンタリーは別として、日本は劇映画で脚本を書いて、自ら動いてお金を集め、スタッフを集め、すべてをやる腹くくれている人がどれだけいるのかなっとは思います。アルゼンチン映画にプロデューサーという人の名はクレジットにありますけど、皆友達同士で替わり交替でフロデュースして、次は監督したりしています。でも結局、お金も監督が自ら集めています。

何故ラテンアメリカの映画を専門に紹介しようと思われたのでしようか。

 ラテンアメリカの映画が最も日本に入ってきにくい。始めからDVD公開だけで入って来ることはありますが、文芸作品なのにエロチックなところをジャケットにしたりする。そういう風にしか扱われていないのに、腹立たしさを感じていました。大作は買えなくても、小品でもいい作品はたくさんあります。
 スペイン語圈の映画ですので、字幕を最後に自分がチェックできる、字幕を自分で付けて経費が浮くということもあります。今『苺とチョコレート』などキューバ映画の名作を上映する“キューバ映画祭”を準備していますが、皆字幕は英語がつけられているんです。そうするとスペイン語の面白さが出にくい。そこで私みたいな虐げられたスペイン語やってきた人間にとっては「お前らみとけよ」みたいな気持ちはどこかにありますね。

作品を買い付ける時、何か基準みたいなものはあるのでしようか。

 観てほしいというよりは、日本でやる意味があるのかどうか、ということです。この『今夜、列車が…』も2004年時点で買った時、感動もしたし、粗いところもあるんですが、何よりすごいエネルギーを感じました。日本で国鉄がJRに民営化された時に、『国労冬物語』というドキュメンタリーはありましたが、フィクションで作られたものがあっただろうか。運動の中にいた当事者ではなく、例えば次の世代の人とか、外からの人、特に若い人が「あの時こうだったんじやないのか」と問うような映画はなかった。

『人らしく生きよう・国労冬物語』(2001/松原明監督):1987年に民営化、“JR”となった国鉄。その分割民営化によって仕事を奪われた国労=国鉄労働組合の組合員の14年間の闘いを追ったドキュメンタリー。運転士、保線労働、車両検査に携わった労働者3人を軸に、彼らの声や家族の表情をとらえていく。職場復帰を求め、権力と闘い続けてきた鉄道員たちの怒りと抵抗、そして容赦ない弾圧の実態が浮き彫りに。

 この監督はアルゼンチン鉄道民営化の時は20代そこそこだったんですが、一番大きな組織、労働組合が潰されていった時、本当に組合ってのは闘ったんだろうか、という疑問があったらしいです。
 この映画は、アルゼンチン国内では賛否両論あり、当時の労働組合の人からはケチョンケチョンにされたそうです。鉄道民営化された90年代当時、映画の中に出てくるように、どうしようもないという思いの人たちは多く、そのまま止まってしまった。それを、その時若かった者がこんな映画を作り、どうしたらいいのかという憂いを突かれると、しんどい目をした労組の人たちは、民営化され10年以上もたって、今さら昔のことを言わなくてもいいやないか、という反応があったそうです。
 それでも海外で、ヨーロッパで非常に評価されました。民営化ということにはどの国の人たちも経験していることで、私たちも同じです。だから初監督作品で、フィクションとしてここまでの映画にしたことに、日本の人に是非観てほしいと思いました。
 いろんな劇場にかけてほしいと言っても「何を今さら民営化みたいな」という反応でした。これを観た時、一番思ったのが、郵政民営化とか、規制緩和とか、全くセイフティーネットなく、助ける手段もなく、勝手に自助努力みたいなのを押し付けるのが小泉政権の時に一気にホーンと来たと感じました。それは新自由主義で、それでアルゼンチンは2001年に、国が破綻したんです。それを私はすごく言いたかったんです。
 メネム政権の時にアルゼンチンは全部民営化し、全部外資を入れました。インフラまで外資に渡したんです。水道も人札制にしてフランスの企業に渡したんです。外貨はどんどん入る。アルゼンチンは新自由主義の優等生としてIMFからのアメリカからもお褒めの言葉に預かったんです。それがおかしくなると外資は一斉に引きあげる。すると銀行取付け、週に100ドルしかおろせなくなる。おばちゃんらが銀行のシャッター叩いて「金返せ!」となり、アルゼンチンは本当に潰れたようでした。日本でも、アルゼンチンの円建て国債を買ったところは全部紙切れになりました。

トウオッツオ監督が来日されましたが、その時のエピソードがあれば…

 映画を公開するためには、まず、劇場から探さなくてはいけないんですが、その時何故かユーロスペースという劇場の階段に並ぶ人がきが目に浮かびました。ここやと思ってその劇場に行きましたが、素人ひとりで「何やっとんのや、こいつ」と思われながら、公開にこぎつけるまで時間はすごくかかりました。
 宣伝でお金をどう使うのかということで、例えば昼間のロードショーなら宣伝費に1千万使ってもらわなくてはならないというような風潮があるんですね。ユーロスペースはそんなことを言わない劇場ですが…。1千万もどこに使うのかというと、新聞広告だとか有料広告に使うんです。私は有料広告1回も打ったことがないんですが、何故かと言うと、新聞の小さな映画の興行欄ありますね、あれで1日30万円位します。それを三大紙、五大紙出したらそれだけでいくんですよ。
 で、今回ロードショーでは、有料広告は出さない代わり、いくら入っても2週間確定の上映で、その後1週間のレイトショーの計3週間でいいですってことにしました。有料広告は効かないと思っているし、もっと確実な方法で、監督を呼びますということにしました。広告だけ出すよりは、何百万もするわけではないので、映画を作った人に来て語ってもらう方がいいと思いました。
 私は監督に日本に3日間位の滞在をお願いしていたのですが、監督は初めての日本で、地球の裏側まで行くので「どんな安いとこでもいいから1週間位いたい」、それに彼女も連れて来ると言うんです。私は「彼女の分までもてへんで」って言うと「彼女の分の半分出すから」と言うんです。日本まではエコノミーで一番安いのを探して、アルゼンチンからチリに出て、そこからカナダヘ行って日本へ行くのですが、着いた時には二人ともぐったりしていましたね(大笑)。泊まる所もホテルではなくて、渋谷のウィークリーマンションに泊まってもらっていました。
 私も忙しくて、試写会の合間とかは「僕たちのことはほっといて」と言って、携帯もないのでどこに行っているのかと思っていたら、彼女と二人鎌倉とか渋谷のセンター街を歩いていて「よくこんな騒音の洪水の中で君たちは生きてられるんだな」って言っていました。

監督自ら来られて、記者会見とかされて直接取り上げられるチャンスになったんじゃないでしょうか。

 そうですね。その時監督は38歳でしたが、文化担当の記者の方は非常にしっかりした意見を特っていると感心していました。でも普通はそうでしょうって思うんですね。ラテンアメリカは特に、ものを創るってことはことごとく自分の何かを表現するわけで、政治的にならざるを得ないものです。
 記者会見で監督に「新自由主義がダメだったら、社会主義の方がいいと思ってるの?」といった質問が出されると「そんな簡単にいかないことは世界中の誰でも知っているでしょう」と反対に返される。すると記者が「それなら、どんな社会がいいと思っているの?」と聞くのですが、私は「誰に聞いてんねん」と思いましたけど、でも彼はそれに対しても自分の考えをすごくはっきりと持っていましたね。
 いろんな取材の方、どうぞってお任せしていましたが、皆すごく良かったと言ってくれました。記事にもなり、それはありかたかったですね。
 あと沢木耕太郎さんが試写には来られなかったのですが、急にお電話いただいて、明日から海外に行くのでDVDを送ってくれないかというので、すぐにお送りしました。でも、そういうことを言う人もいっぱいいるんですけど、だいたいは何も書いてくれないんです…、けど沢木さんはあの記事を書いていただきました。

私はあの沢木耕太郎さんの記事を読んで、その週にユーロスペースに行ったんですが毎回の立ち見が出ていてすっごい人でした。それで映画を観て、全くはずれたところがないものだと思いました。

 ありがとうございます。あの伜はですね、宣伝部が皆取りたい枠なんですよ。朝日新聞の沢木耕太郎さんのあの枠で、ここだけの話ですけど、宣伝効果八百万円くらいあるんですよ。ぽんと沢木耕太郎さんには感謝しております。私は実は、新聞取ってないんで知らなかったんです。周りが言ってくれて「エエッ」ってわかったものでした。

『今夜、列車は走る』は素敵な題だと思います。

 ありがとうございます。タイトルはいつも私が頭を燃やしながら考えています。百個ぐらい考えて、劇場と話しながら最終的には私がこれでいきますって決めています。


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