10月例会『ヒパクシャ』鎌仲ひとみ監督・シネマ&トーク

 「ヒバクシャ 世界の終わりに」キャンペーンで多忙な日々を送る鎌仲さんですが、10月11日(月・祝)京都映画サークルの例会に参加していただきました。深刻な映画を撮る方なのに、とびっきりの明るさと前向きな姿勢、例会上でも時折笑いを誘うお話しが魅力。映画大学や京都映サに来られてから、人気沸騰!その気安さ(失礼)からか、わいわい仲間と飲んで騒いで楽しいひと時を過ごさせてもらっています。いや、それだけではもちろんありません、深刻な話もちょっぴりしますよ。
 今、輝いている映画人のひとりです。

 
イラクで死んでいく子どもたちが、今生きてる自分とは直接関係ないと思っていたヒバクシャだったと知ってー

イラクのホントの生活が知りたかった

 98年にイラクヘ行くことになりました。医療支援でイラクに薬を運んでいる女性と出会ったことがきっかけでした。イラクでは経済制裁で子どもたちがガンや白血病で治療されずに亡くなっていると報告されていました。私は何でそんなことになっていて、何でそういうことが報道されないのかわからなかったんです。当時のイラクに関する映像っていうと、国連の車が行ったり来たり、サダム・フセインが映って独裁者だとか、大量破壊兵器の査察がどうだとか、そんな映像ばかりで、ホントにイラクで普通の人たちがどんな生活をしていて、何を考えているのか、全く伝わってきていないと気がつきました。イラクの普通の人たちに会って話が聞きたい、それを伝えたいと思い、NHKのプロデューサーにイラクで番組を作りたいと言いました。

 
 私がイラクの病院に着いた日から、白血病棟で子どもたちが亡くなっている現場にいきなりガーンとぶつかりました。本当にこんなことが起きているんだと思いました。イラクの医療というのは湾岸戦争の前、中東で一番良くて、お医者さんもアメリカやヨーロッパで高い教育を受けていました。国営の石油産業の上がりからサダム・フセインがいい病院を建てて、イラクの国民であれば誰でもただで医療を受けられるシステムがあった。それがイスラム的杜会主義だったんです。
 湾岸戦争で通信や病院や上水道場も破壊されて今も水が汚いまま。単純にガンや白血病で亡くなっていっただけではなく、インフラや環境破壊もその要因です。98年にWHOがイラクで60万人の15才以下の子どもが経済制裁が直接の原因で死んだと発表しました。60万人ってのは凄い数字ですよね。それを世界中が知らない。「経済制裁」って言葉から私たちが受け取るイメージはもっと柔らかいもので、サダム・フセインにもう戦争をさせないという理由の経済制裁ではあるんだけど、サダム・フセインは大統領の座に坐り続けていた。結局、子どもたちや病人の弱い人たちから死んでいかなければならない。何で抗がん剤が大量破壌兵器の材料になるんだと、私は国連の事務所に聞きに行きました。そしたら「そう言われているんだ」って言うだけで誰もまともに答えてくれないんです。

「被爆者」と「ヒバクシャ」体内被曝の恐ろしさ

 イラクで子どもたちが死ななければならないのは、満足な医療がないからだと、私には思えたんです。砂漢に転がる劣化ウラン弾が原因だとしても、何でそんなになるのかがわかっていなかった。もともと被爆者とか原爆とかに関して興味を持ったことがなくて、50何年前に原爆が落ちて、被爆者が悲惨な目にあった。だけどそのことと、今生きてる自分とは直接関係ない。核兵器さえ使われなければ、あんな悲惨なことは起きないし、人類はそれほどまで愚かではないと思っていました。だからこの映画の『ヒバクシャ』と聞いた時に「ああまた広島と長崎のことか」とほとんどの日本人が思うんでしょう。私もそんな風に思っていました。ところが生まれて初めて、イラクで全然違うヒバクシャと出会ってしまった。映画にも出てきた肥田先生によってそういうことを知りました。肥田先生は「イラクの子どもたちの体に劣化ウラン弾の微粒子が入って、それが弱い放射線を出してDNAを傷つけ、DNAが突然変異を起こしている。子どもは大人より放射能に敏感だ。傷つけられた遺伝子を今の医学では直せないんだ。それが被曝だ」って言ったんです。私はピカッと原爆が落ちて、放射線を外から浴びるのがヒバクだと思っていて、「ヒバクってそういうことなのか」と初めて知りました。体の中に放射性物質が入ってしまうと外に出て行かない、細胞の遺伝子を傷つけガンや白血病を引き起こす。この低線量被曝という体内被曝を肥田先生は「根っこのところで命を挫いてるんだ」と表現されました。人間を人間としているもの、それは遺伝子だと思うんですが、低線量被曝とは遺伝子を破壊する、人間の一番深い所を蝕むものだなと感じました。お母さんの子宮には毒を入れないバリアがあって、親がエイズでも子どもは守られているものなのに、放射性物質ってのは真っ先に胎児に入っていくんですね。

イラクで起こっていたことの怖さ。それが六ヶ所村でこれから起きようとしていることが結びついていく。

 ハンフオードの農家のテリーとトムはあんなに考え方が違うのに、中のいい兄弟です。兄のトムは地域が汚染された現実を受け入れ闘っていますが、弟のテリーは自分が作ったジャガイモが自慢なのです。一家はアイルランドのジャガイモ農家として移民し、砂漢だったあの土地を開拓してき、テリーにはジャガイモ作りの血が沸沸と息づいているんです。土地が汚染されていることを言った途端、ジャガイモ作りをしてきた自分たちの誇りを失ってしまいます。ヒバクは人間の生きて依って立っている「誇り」をも傷つけていると思います。
 アメリカの陸軍少佐のダグラス・ロッキーという人がいて、アメリカ軍の兵隊を劣化ウラン弾の汚染から守るにはどうしたらいいのか研究していました。4年間研究してきて、はっと気が付くと自分のおしっこから普通の人の600倍のウランが入っているとわかったんです。そして辿りついた結論は「劣化ウラン弾は使わない以外に方法はない」というものでした。だけど陸軍はその報告書を握りつぶし、彼を首にしました。
私は「敵だけじゃなくて自分たちもやられてしまう兵器をどうしてアメリカ軍は使うんだろうか?」と彼に聞いたら「君は命のことを大事に思っているだろう」と言うので「もちろん、思っています」って答えると「戦争をやる奴はそんな風に思っていないんだよ。いかに相手を効率よく殺すかしか考えていない。お前の思ってる常識と戦争をする人たちの常識は違うんだよ」って言うんです「それはちょっと困ったことだな…」と思うのです。命を大事にする人と戦争をする人が、どうしたら出会えて、話をすることができるんでしょうか。

日本に目を向ける―『六ヶ所村ラプソディー』―


 この映画『ヒバクシャ』を作って思ったことは、誰が加害者で誰が被害者であるのか、わからない、ということです。イラクで死んでいく子どもたちは純粋な被害者だけども、そういう危険を、現在そして将来にも子どもたちに、もたらしているのは大人の責任じゃないか。大人の責任として例えば日本で劣化ウランがたくさん溜まっている。原発で濃縮ウランを燃やすと燃えた後のゴミの85%から89%は劣化ウランなんです。その中に原子炉の中で反応して、プルトニゥムとか、ネプチウムとか、新しい高レベル核廃棄物が混入してきます。それまで地球上に存在しなかった放射性物質で、物凄く恐ろしい猛毒を持っています。プルトニウムは耳掻き一杯で8千万人が殺せるんです。それが1トンも2トンも日本の中に溜まっているんです。
 そのことは一体どういう意味があるんだろう。日本中の原発から出てきたゴミが六ヶ所村に集まり、再処理工場で2兆円かけて出てきた核廃棄物をプルトニウムとウランに分ける処理をします。第1ステップが再処理工場を動かそうとする計画なんですが、この工場を動かすと、1日に1基の原発で1年分に相当する放射性物質が、海の中や空中に放出されます。微量神話ってのがあって、アメリカも日本も政府は放射性物資は微量だから人体に影響はないって言う。例えば環境ホルモンなどほんのちょっとでも人体に悪さをするものもあり、毎日微量だけども食事の中で蓄積する放射性物質はもっと危ない。現代の科学でわかってきているのは微量でも危険だということです。
8月には再処理工場に劣化ウランを入れて稼動させる試験をしようという時期にまできています。ウランを入れると工場全体の管が汚染され、やめようとしても解体するのに何倍も費用がかかる。プルサーマルというプルトニウムと混ぜた燃料を燃やして原発を動かすのは危険だと言われていますが、無理やりそういうことをやろうとしている。
 

 

 私はイラクで本当に多くの子どもたちが死んでゆき、湾岸戦争後に障害を持って生まれてくる子どもたちの姿を見てくると、物凄いことが起こっている怖さがあり、イラクで見てきたこと、それが六ヶ所村でこれから起きようとしていることが結びついていくんです。そんな気持ちから、今新しい映画を六ヶ所村で撮り始めています。これまで原爆とか核とかタブーとして隠されてきていたことだけど、そんな時代じゃないと感じています。蓋をされたものを開いたり、閉ざされている人間の意識を開いていく、そういう開かれた世界を映画の中で表現していきたいなと思っています。


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